サーキュラー・(エコノミー)・シティ

 
 
サーキュラー・アドバンテージ
 

サーキュラー・エコノミーとは


サーキュラー・エコノミー(Circular Economy:CE)とは「循環型経済」とも呼ばれますが、廃棄物を出さないビジネス設計やリユース、リサイクルを通じて利益を出せるのが最大の特長であり、従来型の「Take(資源を採掘して)」「Make(作って)」「Waste(捨てる)」というリニア(直線)型経済システムのなかでは活用されずに「廃棄」されていた製品や原材料などを「資源」として捉え、廃棄物を出すことなく資源を循環させることを可能にした経済の仕組みを言います。
この仕組みにより、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄の経済モデルには非常に多く存在していた「無駄」を極力減らし、地球環境【CSR (corporate social responsibility、企業の社会的責任)や労働環境にも持続可能性をもたせるオルタナティブな経済の仕組みが生まれ、製品・部品・資源を最大限に活用することが可能になり、それらの価値を目減りさせずに永続的に再生・再利用し続けられるようになります。
このように、サーキュラー・エコノミーは、環境負荷と経済成長をデカップリング(分離)させ、持続可能な成長を実現するための新たな経済モデルとされており、トリプルボトムラインと呼ばれるPlanet・People・Profitのうち、Planet・ProfitだけではなくPeopleの視点からも注目されており、新たな経済モデルへの移行による新規雇用の創出効果や移行により失業リスクにさらされる人々に対するリスキリングなども含め、どのようにサーキュラー・エコノミーをインクルーシブに実現していくかも論点の一つとなっています。

概念図


これまでの経済モデルとサーキュラーエコノミーのイメージ図(*2)。
                                          イメージ図

サーキュラー・エコノミーの概念は上の図のようになり、サーキュラー・エコノミーとは「Linear Econony(直線型経済)」だけではなく、リサイクルを中心とする「Reuse Economy(リユース経済)」とも明確に区別されており、サーキュラー・エコノミーは、従来からある「Reduce(減らす)」「Reuse(再利用する)」「Recycle(リサイクル)」の3Rの考え方とは異なり、そもそもの原材料調達・製品デザイン(設計)の段階から回収・資源の再利用を前提に廃棄ゼロを目指しており、この循環型の製品設計は「サーキュラー・デザイン」とも呼ばれています。

サーキュラー・エコノミーの3原則


国際的なサーキュラー・エコノミー推進機関として有名なエレン・マッカーサー財団は、サーキュラー・エコノミーの3原則として、
自然のシステムを再生(Regenerate natural systems)、製品と原料材を捨てずに使い続ける(Keep products and materials in use)、ゴミ・汚染を出さない設計(Design out waste and pollution)を掲げています。

サーキュラー・アドバンテージ


サーキュラー・アドバンテージとは、一言でいうと、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)のビジネスモデルを、いちはやく確立した企業が競争で優位に立つということですが、
このまま大量生産・大量消費型のビジネス形態が続いた場合の経済損失額は、2030年時点で4.5兆ドル、2050年時点では25兆ドルに達すると予測されていますが、最近では、世界の消費者の意識も変わってきており、よりサステナブルな商品・事業への投資が盛んになってきています。
つまり「このビジネスは儲かるのか?儲からないのか?」という短期的な視点(短期的な利益の追求)だけではなく長期的な視点(企業の存続性の向上・長期的な利益の追求)で物事を考えることが自社のためになることが企業にも理解され始めてきたので、世界の企業は、サーキュラー・エコノミーに向けて動き出しています。

身近なサーキュラー・エコノミー


サーキュラー・エコノミーや「循環経済」という言葉を聞くと難しく感じる人もいるかもしれませんが、
カーシェアリング(1台の車や自転車を複数人で使用する)フードシェアリング(店舗やレストランで余った食材・食品を安価で消費者に提供する)空間シェアリング(空きスペースの時間貸しや宿泊貸し、レンタルオフィスや民泊など)などもサーキュラー・エコノミーの一部であり、このような提供者・利用者双方の利害が合致して行われるシェア行動は「シェアリング・エコノミー」と呼ばれています。
つまり、シェアリング・エコノミーは、サーキュラー・エコノミーの一連のバリューチェーンにおける「Product Use(製品利用)」の部分における活動として位置づけられるので、サーキュラー・エコノミーは、シェアリング・エコノミーを包含する概念と言えますが、シェアリング・エコノミー型サービスの全てをサーキュラー・エコノミーとして定義できるわけではない点には注意が必要です。
これは、シェアリングプラットフォーム上で交換される製品が、持続可能な原材料に基づいて循環可能な形で作られているかどうかがポイントになり、持続可能な原材料に基づいて循環可能な形で作られていないシェアリング・エコノミー型サービスは、サーキュラー・エコノミーとは言えません。

5つのビジネスモデル


①再生型サプライ「原材料の循環」(Circular Supply-Chain)
 製品の生産に使う原材料を生分解可能なモノ、あるいは再利用可能なモノに変えることで資源の調達費
 や廃棄処理コストを抑える方法であり、
供給量が少ない原材料や調達リスクが高い素材を活用する企業
 は「より多くの資金を投じるか「代替素材を模索する」の2択を迫られますが、
再生型サプライでは、
 原材料に関わるコストを削減し、安定調達を実現するために繰り返し再生し続ける100%再生可能な原
 材料や生分解性のある原材料を導入します。

②回収とリサイクル「資源再生」(Recovery & Recycling)
 従来は廃棄物と見なされていたあらゆるモノを他の用途に活用することを前提とした生産・消費システ
 ムを構築することにより役割を終えた製品から資源として活用できる部品などを取り出して再利用する
 方法であり、当社のPPAモデル事業(農業事業)が該当します。

③製品寿命の延長(Product Life-Extension)
 リマニュファクチャリング(再製造)によって製品が使える期間を伸ばしていく方法であり、資材を削
 減・再利用・リサイクル・回収する新たなアプローチにより収益を生み出す一方、二酸化炭素(CO2)
 排出量の低減化が図れます。
 これまでの単にモノを売るだけの「売り切り型/その場限り」のビジネスから消費者にとって必要な製
 品と
してモノを積極的に生かし続けるビジネスへの転換を行うことを意味します。

④シェアリング・プラットフォーム「所有からシェアへの転換」(Sharing Platform) 
 最近、話題に上ることが多いシェアリング・エコノミーのモデルであり、モノを複数のユーザーと共有
 したり必要に応じて貸し借りをしたりする方法であり、当社のPPAモデル事業(エネルギー事業・建物
 事業・農業事業)が該当し
ます。

⑤サービスとしての製品(Product as a Service) 製品を販売するのではなくサービスとして製品を提
 供する方法であり、当社のPPAモデル事業(エネルギー事業・建物事業・農業事業・街づくり事業)が
 該当し
ます。

10のテクノロジー

 
サーキュラー・エコノミーを実現する10のテクノロジー

サーキュラー・エコノミーのビジネスモデルの多くは、革新的なテクノロジーを効果的に活用することで実現され、ソーシャル、モバイル、アナリティクス、クラウド、およびM2Mコミュニケーションといったデジタル・イノベーションが、物理的とデジタル・チャネルを効果的に結び付け具現化を可能にします。
サーキュラー・エコノミーへの転換は「取って作って捨てる」という旧来のアプローチから 「取って作って作り続ける」アプローチへの転換を意味するので、企業にとっての一つの「正解」は存在せず、企業は、自社にとって最適なビジネスモデルを慎重に選択する必要がありますが、
新たなビジネスモデルの多くは10の革新的なテクノロジーが無ければ事業拡大することはできません。

1.モバイル
 モバイル・テクノロジーによりデータやアプリケーションに誰でも低コストでアクセスすることが可能
 になりサーキュラー・エコノミ型ビジネスモデルの導入を加速します。
 消費行動のモバイル化やオンライン化が進む中、紙からエンターテイメント、店舗に至るまで物理的な
 リソースの必要性が低下しています。

2.M2Mコミュニケーション
 機械同士のコミュニケーションであり、以前より工場の制御システムや自動車のテレマティクス等、一
 部の領域では使われていましたが、
ワイヤレス・ネットワークが世界中に普及したことによりM2Mが主
 流となり「クリティカル・マス」を迎えようとしています。

3.クラウド・コンピューティング
 物理的なモノをバーチャルな代用品が置き換えてしまう「脱物質化(dematerialization)」が進み、モ
 ノがいらなくなる世界では、旅行代理店、CDショップ、新聞業などあらゆる業種が絶滅の危機にさら
 されており、
クラウド・コンピューティングはモバイルやソーシャルと共に「モノがいらなくなる世
 界」の鍵を握るテクノロジーです。

4.ソーシャル
 友だちや家族を見つけ、つながる手段として誕生したソーシャル・メディアは今や、それ以上の存在に
 進化しており、ソーシャル・
メディアはシェア・エコノミーの基礎をなすものに進化し、企業が
 Facebook®などの既存のネットワークを利用することでシェアリング・プラットフォームの設立コスト
 を軽減することができ、
消費者の声をより安く、より早く取得できるので製品やサービスの迅速な改善
 を図ることができます。

5.ビッグデータ・アナリティクス
 サーキュラー・エコノミーが実現された世界では、多くの企業は製品の「販売」により収益を得るので
 はなく、製品を消費者に「利用」してもらうことで収
益を得るようになるので、消費者がどのように製
 品を利
用するかを深く理解することが企業の成長の源となります。
 これは、これからの企業は全く新しい方法でデータをモニタリング・分析しなければならなくなること
 を意味しており「再生型サプライ」「シェアリング・プラットフォーム」「サービスとしての製品」の
 3つのビジネスモデルにおいては複雑なアナリティクスが特に重要です。

6.モジュラー・デザイン
 モジュラー・デザインは、製品の機能に変革をもたらすだけではなく消費者と製品のかかわり方の
 「質」と「期間」にも変化をもたらし、
モジュール単位で設計された製品は故障しても欠陥部品だけを
 交換または修理すれば良いので、消費者はより長く製品を利用し、また自分好みにパーソナライズする
 ことができるのです。

7.スマート・リサイクル
 リサイクルは様々なイノベーションやCEへの投資によって、さまざまな発展を遂げてきておりセンサ
 ーを活用した素材の分別や自動化が推し進められています。
 そうしたリサイクルの進化と効率性の向上を背景に成長の源としてサーキュラー・エコノミーに転換す
 る企業が増えています。

8.バイオサイエンス
 バイオサイエンスは、代替資源の利用を大々的に加速させる重要な役割を担っており、本分野でのイノ
 ベーションは、新たな循環型
資源利用を牽引し、従来、廃棄物として扱われていた生産物を新たな資源
 として利用する新たな手法をもたらします。

9.トレース&リターン・システム
 トレース&リターン・システムは、効率的かつ効果的な素材選別機を利用するなどして使用済み製品を
 効率よく回収し、それらをサービスとして提供したり修理や資源回収を行ったり再利用、再製品化、リ
 サイクルすることによりサーキュラー・ビジネスモデルを支えます。

10.3Dプリンター
 ここ数年間で最も刺激的なテクノロジーのひとつと言われる3Dプリンターは、製造業界の中心的な役
 割を担うまで着実な進化を遂げており、サーキュラー・エコノミー
においてもビジネスモデルを実現す
 る主要ドライバーのひとつであり、正確なジオメトリーで部品を直接出力こ
とにより製品の修理を可能
 にしたり代替材料やリサイクル素材の利用機会を生み出します。

直線的モデルから循環型モデルへ

 
産業革命時代以降の世界経済は、リニア(直線的)なバリューチェーン(資源を使って製品を生み出し、それを消費し廃棄するというモデル)の中で営まれてきましたが、サーキュラー(循環型)モデルは、生産と消費のあり方を今までに無いレベルで変革し、さまざまな機会をもたらす可能性を秘めています。
サーキュラー(循環型)モデルにより新たな「富」を生み出すと期待されるのは、廃棄物としてのいわゆるゴミばかりではなく、企業の会議室や自動車、日用品などの現状「働いていない」「使われていない」「空いている」資産や天然資源も含まれているので「無駄」という考えを改め、あらゆるものに価値があることを認識することによって持続型のサーキュラー・エコノミーを実現できます。
つまり、役割を終えた製品や資源を回収し再生させ再利用するという循環をつくることが、サーキュラー・エコノミーの基本的な考え方であり、この概念における最も重要なポイントは、このような循環をつくることが企業にとってコストではなく大きなビジネスチャンスにつながるというところです。
しかし、この新しいモデルをつくるには今の世の中の大勢を占めている「ビジネスの成長には資源の浪費が必要である」という考え方と「天然資源は無尽蔵に得られる」「資源価格は次第に安くなる」という考え方を根本的に改める必要がありますが、この前提や法則はすでに崩れており、直近40年間の国内総生産(GDP)の成長率とエネルギーや原材料、食料などの価格の関係を見ると、1975年から2000年までは、確かにGDPが1%成長すると価格が0.5%下がるという法則が確認できました。
しかし、2001年以降は、新興国経済が急激に発展したことでエネルギーや原材料の需要が高まったことにより天然資源枯渇に対し資源需要は増え続けているので、GDPが1%増えるとエネルギーや原材料の価格は1.9%上昇することが一貫して続いているので、
世界の国々が、旧来モデルで現在と同レベルの需要水準を維持し続けた場合、それが解消されるまでの期間は資源の価格は上昇を続けることになります。

「Ego」から「Eco」へ

 
                             出所 : SDGsが問いかける経営の未来

サーキュラー・エコノミーが今後の経済活動として必須であり、新たなビジネスチャンスが生まれることが理解できる筈ですが、キーワードは「街づくり」になり、つまり、循環型のエコシステムを確立した都市、いわゆる「サーキュラー・シティ」づくりになります。
海外では、ニューヨーク、ロンドン、アムステルダムなどでサーキュラー・シティ化が進んでおり、日本を除く先進国では、世界規模でのサーキュラー・エコシステム競争が始まっており、実際に、ヨーロッパでは、世界的な産官学のネットワークを作りながら本気でサーキュラー・エコノミを推進しており、この傾向は、今後、加速化すると思われますので、当社でも「パッシブ・コミュニティ」構想の実現化を図ります。
また、海外の国や企業は、どんどん失敗から学んでおり、一気に日本を追い抜こうとしているので、日本企業も早く動くことが求められていますが、日本企業は、1990年代以降、世界に通用するような革新的な製品やビジネスモデルを生み出すことができていません。
サーキュラー・エコノミーは、日本からイノベーションを起こす1つのきっかけになり得ますが、これには、非常に高いハードルが存在し、その高いハードルは、企業を運営している頭でっかちで柔軟性に乏しい企業の経営者です。
彼らが、サーキュラー・エコノミーの重要性を理解し「資源を大量に使って製品をつくり消費し廃棄する」という従来のモデルを変える(自社の戦略やビジネスモデルを再定義する)ことができれば、イノベーションは必ず起こるはずですが、
これをクリアーできても、日本の場合、ものづくりの伝統が非常に根強いので、特に、製造業の分野でビジネスモデルの転換を行うのは非常に困難と思われます。
しかし、これからの企業は、サーキュラー・エコノミーをはじめとしたサステナビリティに対する取り組みを「義務」ではなく「戦略」とすべきであり、戦い方は、機能・品質・価格の面で競争優位を高め自社単独でシェアを拡げていく「エゴ」システム型から社会課題解決(大義力)とルール(秩序形成力)を加えステークホルダーと協業しながら市場を創り出していく「エコ」システム型へ変化していく必要があります。
そして、このようなエコシステム型の戦いで最も重要なのは、ステークホルダーの共感・熱狂を獲得するための「骨太な大義」であり、リニア・エコノミーは、短期利益の最大化が巡り巡って企業の経営環境自体を破壊する「社会課題ブーメラン」の原因であるにも関わらず、長年、当たり前とされてきましたが、サーキュラー・エコノミーは、そうした従来型経済への大いなる挑戦になります。

ビジネスモデルチェンジ


メーカーと小売企業が製品の「総所有コスト(TCO)」の責任を負った場合、
多くの企業は、これまでの優先順位を変更し、製品寿命や信頼性の向上、再利用可能性に注力するようになるはずです。
サービスとしての製品では、消費者はモノを必要な時にだけ借りて使い利用した分だけのサービス料金を支払うことになるので、これは、従来のビジネスモデルからの根本的な変革であり製品の質や耐久性が重んじられるようになり、これにより、企業と消費者の関係の持ち方も刷新されますが、上記の分類にビジネスを当てはめる前に考えるべき優先順位があり、最重要なのが「資源をなるべく使わない・廃棄物を出さない」ことであり、2番目は「廃棄物のリユース・リサイクルを進めること」です。
サーキュラー・エコノミーのビジネスモデルは、シンプルなので理解することは難しくありませんが、大量生産・大量消費を前提に成長を目指す企業戦略、組織構造、オペレーション、およびサプライチェーンといった機能は、すでに企業のDNAに組み込まれてしまっているので、実際にサーキュラー・エコノミーへとビジネスの舵を切ることは容易ではなく「循環型の競争優位性」を目指す企業は、使い捨て思考を捨て新たなビジネスモデルを構築した上で、サーキュラー・エコノミーを抽象的な概念からビジネスシーンで、すぐにでも適用可能な実用レベルのビジネスモデルへと具体化することが必要になります。

日本の取るべき道


日本は、リサイクル先進国のイメージがあるかもしれませんが、サーキュラー・エコノミー後進国になりつつあり、
企業が自ら主体的に動かなければ後進国化は避けられません。
日本は、厳密な廃棄物の仕分けルールや、ごみ焼却炉における優れた燃焼技術から廃棄物を燃やした熱をエネルギーとして回収する「サーマルリサイクル」が主流化しており、ペットボトルのサーマルリサイクル率は約8割で欧米に比べ約2倍にもなっているので「日本のリサイクル率は高い」「サーキュラー先進国だ」と誤解されていますが、焼却時に排出される温室効果ガスが地球温暖化に大きな影響を与えていることから、今、世界で主流化しつつあるのは燃やさずに再生利用する「マテリアルリサイクル」や化学物質レベルに変換して再利用する「ケミカルリサイクル」になっており、OECD加盟国における日本のマテリアルリサイクル率は下から5番目です。
かつての日本は、製品のエネルギー消費率の極小化に寄与する高い省エネ技術から温暖化対策先進国を自負していましたが、エネルギーの持続可能性自体にフォーカスを置いたグローバルの再生可能エネルギー主力電源化の流れに乗れず、後進国化したと言われており今回も、その時と同じ轍を踏みつつあります。
このような日本の状況を尻目に、欧州市場では既に政府主導でサーキュラー・エコノミーの規制が進んでおり、ドイツでは、再生プラスチックが10%以上使用されているICT機器でなければ公共調達の対象とならない。フランスでは、包装材が再生プラスチックでないと売価の10%が罰金として課せられる。といった規制があり、企業は、サーキュラー・エコノミーを把握・導入していないと勝てない、つまり市場で生き残れないので否応なしにビジネスモデルの変革を迫られており、欧州をはじめとした先進国では、企業がビジネスの競争力を高めることと紐づけて、サーキュラー・エコノミーを追求する環境が形成されつつありますが、残念ながら日本は、この世界の主流を占める流れからは大きく出遅れています。
また、産業界では製品を供給する製造業が「動脈産業」で、産業廃棄物の処理や使い古された製品のリサイクルなどを行い再び循環させるのが「静脈産業」と呼ばれますが「サプライチェーンの上流である動脈産業側のビジネスモデルをチェンジさせることが最重要ですが、日本のサーキュラー・エコノミー確立の鍵は静脈産業側にあり、日本の静脈産業は欧州と大きく構造が異なり、欧州では、インフラ系の大企業が収集運搬から処理、リサイクルまでを一手に担うのに対し、日本は、中小・零細規模の細分化されたプレーヤーが市場を支えているので、彼らをいかに巻き込みエンパワメントしながらエコシステムを立ち上げていくかが極めて重要となっていきます。

選択肢はない


18世紀半ばの産業革命から約260年の間に世界の人口は7億人から72億人ほどに膨れ上がり、今後も人口の増加が見込まれ2050年には世界人口は98億人になると推計されていますが、地球の資源には、すでに限界が見えているものもあり「現在の経済システムはもはや持続できないのではないか?」という認識が広まる中、サーキュラー・エコノミーを導入すれば「持続可能性」を維持しつつ多大な経済効果も得られるとの研究機関の発表により、これまでは、決して相いれないと思われてきた環境と経済の利益を一致させることができる研究結果に政府や企業に衝撃を与え、実際に、飛躍的な成果を出す企業が現れ始めたことで、さらに関心が高まっています。
現在のリニア・エコノミーは、環境・社会の両面から考えて持続可能な経済モデルではないことが明らかになってきており、OECDの調査によれば、2060年にまでに一人あたり所得平均が現在のOECD諸国の水準である4万米ドルに近づき、世界全体の資源利用量は2倍(167ギガトン)に増加すると推計されていますが、人口も増え一人あたりの豊かさも増えれば、当然ながらその生活を維持するために必要な資源の量も増加しますが、一方で、その資源を生み出している地球は一つだけしかないので、先進国をはじめとする世界中の多くの人々が、地球1個ぶん以下のエコロジカルフットプリントで生活をし続けなければ持続可能な発展は実現不可能となります。
また、効率性を重視する大量生産・大量消費型のグローバル経済は、大量の廃棄文明を作り出し気候変動や海洋プラスチック汚染、熱帯雨林や生物多様性の破壊といった負の外部性を多くもたらしているので、これらの状況を解決し全ての人々がプラネタリーバウンダリー(地球の環境容量)の範囲内で社会的な公正さを担保しながら繁栄していくための仕組みとして、サーキュラー・エコノミーの考え方が注目されており、我々が取れる選択肢は1つしかないと言えます。

サーキュラー・(エコノミー)・シティについて


サーキュラー・エコノミーへの転換は、世界経済の中で過去250年間続いてきた生産と消費の在り方における史上最大の革命となる可能性を秘めていますが、サーキュラー・エコノミーの本質は、市場、顧客、および天然資源の三者の関係性を全く新しい視点で見つめなおすことにあります。
この視点から三者の関係を捉えるとデジタルをはじめとする最先端のテクノロジーは企業に破壊的なビジネスモデルへの変革をもたらし、デジタルに代表される革新的技術は、消費者とのつながりを強化し資産の稼働率を高め市場と連動させることにより、これまでの生産と消費のあり方を根本的に変化させていきます。
デジタル革命とビジネスモデル革新、サーキュラー・エコノミーを融合させることで企業は無駄から富を生み出し新たな競争優位性(CircularAdvantage)を獲得することができるようになりますが、新たな「富」を生み出すと期待されるものは、廃棄物としてのいわゆるゴミだけではなく、企業の会議室や自動車、日用品など現状「働いていない」「使われていない」「空いている」資産や天然資源も含まれており、これまでの「無駄」という考え自体を改め、あらゆるモノには価値があることを認識し、それらを「効率的」に使う以上に「効果的」に活用することが求められ、それが実現できた場合、企業が製品の販売以降も使用済み製品の回収、メンテなどのサービス提供を通じてカスタマー・エンゲージメントを高めることにより消費者とより強いつながりを作ることが可能になります。
このように今後も存続を目指す企業にとって、旧来型のビジネスモデルからサーキュラー・エコノミー型ビジネスへの変化は必須で急務なのは明白ですが、企業の多くは依然として、初めの一歩をどう踏み出せば良いのか苦慮しており、新たなビジネスモデルを試験導入してみたものの将来的に事業拡大が可能な領域とそうでない領域の特定にてこずり、多くの企業は新規事業へのシフトに踏み込み切れていません。
サーキュラー・エコノミー型ビジネスへの転換は「取って作って捨てる」という旧来のアプローチから「取って作って作り続ける」アプローチへのシフトチェンジを意味するので、この転換には時間と努力が必要であり、いつ、どのように変化に着手するか、事前に戦略を策定することが肝要です。
サーキュラー・エコノミー型ビジネスによる競争優位を発揮するための第一歩は、現在の大量生産大量消費モデルを放棄する理由とサーキュラー・ビジネスモデルがもたらすメリットをコアテクノロジーや必要な能力の見極め含めて明確に理解することです。
サーキュラー・エコノミーという言葉が浸透するにつれ、企業のビジネスモデルや消費者の行動など多くの変化が生まれることが予測されますが、企業にとってはいかに早くこの新しい経済の形へと自社のビジネスモデルを適応させ、変わりつつある消費者の需要に応えていけるかが競争の鍵になりますが、サーキュラー・エコノミーの実現には、メーカー・小売・回収・リサイクル企業など幅広い業種の連携や製品回収・リサイクルでは消費者の協力など業界や立場を超えたあらゆる人々の協働が必要不可欠です。
しかし、サーキュラー・エコノミーの推進により様々な異業種・異分野連携が生まれ地域のつながりの再構築やオープンイノベーションにつながることが期待される反面、サーキュラー・エコノミー型のビジネスモデルは従来のリニア・エコノミー型ビジネスモデルと比較してコストがかかり企業や消費者がサーキュラーな選択をするインセンティブがないので税制面での優遇などの政策的介入が必要という指摘もありますが、常に成長しつづけることを目指す企業にとって、サーキュラー・エコノミーを活用した競争優位性の確立は無視することのできないテーマであり、今こそが第一歩を踏み出す絶好のタイミングです。
現代社会では、世界規模で大量消費社会の限界が見え始めており、近い将来、主要な資源が枯渇し必然的に、これまでの消費型経済からの転換が迫られます。
また、大量生産・大量消費・大量廃棄が引き起こしてきた問題の解決策が、循環型経済であるサーキュラー・エコノミーであることは間違いのないことなので、実際に、多くのファストフード店やコーヒーショップではプラスチックストローが廃止され、チョコレートの個包装がプラスチックから紙パッケージへと変更されるなどの「脱プラスチック」の動きも、サーキュラー・エコノミーの一環です。
今、世界中の国々が、躍起になって取り組んでいるサーキュラー・エコノミーへの変換やサーキュラー・(エコノミー)・シティ構想とは、突き詰めていけば、日本の明治時代以前の社会構造(全ての面においての自給自足・循環型社会)とも言えるので、日本の企業に求められているのは、効率性のみを追及する西欧化ではなく、自身の先祖が培ってきた「古き良き時代の日本」への回帰かもしれません。