国による災害誘発

 
 
台風19号の大雨で満水になった八ツ場ダム。治水効果の検証はこれからだ=10月16日、群馬県長野原町 (c)朝日新聞社
 

国による災害誘発とは

 
日本各地で多発している地震だけでなく、近年、頻繁に日本を襲っている水害も無視できないリスクになってきており、2018年の西日本豪雨、2019年の台風19号など、ここ数年は、大規模な水害が毎年のように起こっており、地球温暖化の影響により、被害は収まるどころか、年々、酷くなっていっています。
これは、堤防が整備された結果、かつて人が住んでいなかったような場所に住居ができたこと、これまでは台風や豪雨が少なかったため被害がでていなかった場所でも、被害がでるようになっていること、が理由として挙げられますが、近年では、北海道や東北など、いままでは「台風が来ない」と言われていた地域でも台風が上陸するようになってきており、現在の日本では「日本中どこでも災害が起きる可能性がある」という発想の切り替えが必要であり、ひとたび、堤防が決壊すれば甚大な被害が出ることは証明されています。

首都圏水没

 
関東や東北地方を突如襲った記録的な豪雨により、鬼怒川の堤防が決壊し、茨城、栃木、宮城の3県で計8人の死者を出す惨事が2015年に起こりましたが、この災害は、南北500㎞、東西200㎞という広範囲で積乱雲が帯状に連なる大型の「線状降水帯」が、被災地区の上空で発生したからです。
近年では、
地球温暖化の影響による気候変動で、昔では考えられなかった大水害が起きる可能性が高くなっており、この雲が、もう少し南にずれていたら、首都圏も被害に遭っていた可能性があり、首都圏住民にとっても、この災害は、他人事ではありません。
実際、内閣府の中央防災会議が2010年にまとめた報告書「首都圏水没」では、恐るべきシミュレーションが示されており、首都圏を流れる利根川、江戸川、荒川の3川の堤防すべてが決壊した場合、浸水深は、最大5m以上、死者数は、利根川氾濫では最大で約6300人、荒川氾濫では墨田区、江東区などを中心に最大約3500人になる、と想定していますが、想定される浸水区域内の人口は約663万人ですので、国が、算出した死亡者数は非常に甚大ですが、表現は悪いですが、この人数で済めば御の字かもしれません。
荒川の堤防が決壊すると周辺の家屋は当然、流されますが、それに加え、都市ならではの被害として、高い確率で濁流は、地下鉄などのトンネルを伝って銀座など都心にも水が溢れることになるので駅地下の商店街は水没し、荒川沿いに多いタワーマンションは、下層階が浸水するとエレベーターが動かなくなるので、武蔵小杉のマンション群のように、水が引くまで1週間ほど孤立する可能性が高いなど、住民の避難は難航を極めることは容易に想定できます。

機能不全


地方自治体では、これに対して、避難開始の時間を地域ごとにずらす、避難場所を分散させる、といった広域的な避難計画が必要になりますが、現行制度では、防災の知識のない各市区町村の首長が防災の責任者なので、大規模な自然災害時には、統一的な指揮や迅速な避難指示などの防災に求められる機能は完全に不全に陥る可能性が高いので、自分たちが住んでいる地方自治体に、過度な期待はしないことです。
東京都を大規模な自然災害が襲い、東京都内の数百万人が一斉に避難を始めたら、たちまち、大渋滞が発生して道路交通は完全にマヒしますが、そこに大量の水が濁流として流れ込んだら、ますます被害が拡大するのは確実なので、アメリカ映画のように、大渋滞した車列を濁流が押し流す、という悪夢のような出来事がリアルな世界で起こり、それを見ている、あなたも、濁流に押し流されるという事態が起こってもまったく不思議ではありません。

自己責任

 
地震などの自然災害と違い、雨は、降ることが事前に予測できることが多いので、大雨が降る前の段階なら「遠くに避難する」という選択肢も出てきますので、それが可能であれば備蓄は不要ですが、
早めの避難ができない場合、孤立に備え1週間分の水と食料ぐらいは普段から備蓄しておくべきです。
個人レベルでは、この備蓄が、最大のネックになると思いますが、その地域に住んだのは、自分の判断であり自分の責任なので、この問題は、自分の力で解決すべき問題であり、これが難しいのであれば、早めに他の地域に引っ越しをすべきです。
現在のように、大型の自然災害に襲われ続けている日本では、首都圏も大型の自然災害に襲われるリスクはゼロではないので、首都圏に住んでいる人たちは、自分の身は自分で守るしかありません。
また、大型の自然災害に襲われてから遠くに逃げようとする行為は、それ自体がリスクが高いので、自然災害に襲われてからは、都市部では、近くの鉄筋コンクリート造りなどの高い建物に避難する方が現実的です。
大切なことは、自分が住んでいる地方自治体の「避難勧告」などを待つのではなく、避難と言う行為は、自分の命を守る行為なので、自然の脅威が首都を飲み込む時代が、すぐそこまで迫っているこの時代では「自分の命を守る行動は、自分の責任で行うべき」であり、自分自身で、気象情報を集めて判断し早めに行動を起こすことが重要であり、自分の命の存続を、他人に任せきりにするべきではありません。

ゲリラ豪雨


いまや夏の脅威となった「ゲリラ豪雨」ですが「ゲリラ豪雨」をもたらす夏の積乱雲は、ごく限られた場所に突如発生し10 分ほどで発達し、発生から消滅まで30分~1時間と極めて短時間なので、被害予測が困難なことから「ゲリラ」と呼ばれていますが、人口が密集する都心部で発生する「ゲリラ豪雨」は、人命にかかわるリスクがあり、東京23区が「ゲリラ豪雨」に襲われた場合、駅の改札は見る見る浸水し、歩道や車道は、あっという間に川のような流れになります。
実際に、都内が「ゲリラ豪雨」に襲われた際は、至る所で冠水や浸水の被害が出て、見慣れた場所が一瞬で危険地帯に変わりましたが、東京23区内は、都立公園を除けば高層ビルや住宅が密集し、地面のほとんどが舗装道路で覆われているので、雨水は、道路の下に高密度に整備された下水道に取り込まれ、神田川などの都市河川に流出していきますが、大雨により河川の水位自体が上昇すると、下水道からの雨水で河川が氾濫する恐れがあるため、都心部を流れる神田川の流域には、都道環状7号線の下には、さらに、地下河川が造られ、河川沿いに複数の調節池も整備していますが、設計上の降雨強度を遥かに超える豪雨が発生すれば、浸水被害は避けられなくなりますが、近年は、キャパオーバーが相次いでいます。
しかし、長時間の降雨に見舞われる台風性豪雨によって、荒川の堤防が決壊するほどの水害を想定した場合「海抜0m地帯」の墨田区、江東区、葛飾区、江戸川区の4区のほぼ全域が危機的状況に見舞われるリスクはありますが、河川の氾濫を伴わない短時間の集中豪雨(ゲリラ豪雨)に限定すれば、4区のリスクは他区と大差はないので、一言で「水害」と言っても、河川上流部を含む広範囲で数日に亘って降り続く雨と、短時間に局地的降雨に見舞われる「ゲリラ豪雨」では、浸水予測の結果は異なるのは当然ですが、荒川の東側の葛飾区、江戸川区エリアは、ほとんど高低差のない平坦な地形のため「ゲリラ豪雨」であっても他地域と比べ浸水リスクは多少、高くなっています。


台風19号


台風19号では、全国で、死者・行方不明者は90人超、河川の堤防決壊は140カ所に上り、住宅被害は、床上・床下浸水を含め計7万棟を超えており、厚生労働省によると、水道管の破損や浄水場の冠水などにより最大15万戸超で断水し、停電も相次いだので、復旧には、かなりの時間が必要になっています。
また、衝撃的だったのは水没した北陸新幹線の映像であり、長野市の千曲川の氾濫で計120両が浸水により水没しましたが、この数は、北陸新幹線全体の車両の3分の1に上り、その被害総額は300億円を超えそうですが、
今回、長野市の千曲川で堤防が決壊した箇所は、過去に何度も氾濫を起こしており、1742年に起きた寛保2年の大洪水の氾濫水位は5mを超えたという記録も残っていたにも関わらず、70mに渡って堤防が低くなっており、国や地方自治体は、大雨により堤防が決壊する可能性が高いことを認識しながら、その対策を講じなかったわけですから、これは、完全に人災です。
また、台風19号の復旧作業中に襲われた、2019年10月25日、台風21号により再び大雨が関東や東北を中心に襲い、各地で急激に川の水位が上昇して河川が氾濫し、避難勧告や避難指示が出され、千葉県や福島県などで浸水被害が相次ぎました。

防災対策


巨大台風の猛威と被災地域の住民の避難の遅れなど複数の要因が重なったため、台風19号の被害は甚大になりましたが、このような巨大台風は、これからも確実に日本を襲うので、国は、早急に水害対策の強化を行うべきであり、国民も「自分は大丈夫」と思わない防災意識を持つことが重要になります。
台風19号では、高齢者らが逃げ遅れ、自宅で被害に遭うケースが目立ちましたが、この被害に対して、各地方自治体では、早めに避難勧告を出すなど浸水が激しくなる前の避難を呼びかけたと言いますが、その勧告や指示に具体性がなく「いつ、どこに避難すればいいのか分からない」という人も多くいたので、地方自治体が出す警戒や避難の呼びかけにも工夫が必要になります。
具体的には、一般の人は「
○○㎜降ります」と言われても危険度が分かりにくいので、高齢者らには、周辺の人が援護するなどの相互支援の視点が必要になり、
大型の自然災害が予測できた場合、早めの避難は当然ですが、ほかにも、必要な物資を日頃から用意しておくなどの準備が重要になり、すでに浸水している場合、避難所まで行く方が危険なケースもあるので、近くの頑丈な建物に移るか自宅に残る場合でも2階など少しでも高い場所に避難すべきです。
一方で、今回の水害では堤防が決壊して、一気に浸水したので、個人では対処不可能な一面もあり、国や地方自治体は、民主党政権時から今日まで公共工事を抑制してきましたが、人命を守るために絶対的に必要となる堤防の整備などの治水工事に思い切って予算をまわすべきです。

遊水池


甚大な被害をもたらした台風19号により、東京都内では多摩川が氾濫し、周辺の住宅地で浸水被害が発生しましたが、多摩川を管理する国交省の京浜河川事務所によれば、氾濫した堤防未整備区間は、昭和の初め頃から堤防を整備する計画がありましたが、当時、十数軒あった旅館や料亭が「堤防があると景観を楽しめない」などと反対したために堤防を作れず、その後も、国は堤防整備計画を進めようと住民説明会などを度々行ってきましたが、住民との間で折り合いが付かず膠着状態にあった現在、浸水被害にあいましたので、これは「人災」なので、地域住民の意向を考慮することも重要ですが、国は、危険性が高い箇所は、ある種の強制力を持って整備を進めるべきです。
こうした中、威力を発揮したのが河川沿いの遊水地であり、かつて「暴れ川」の異名をとった鶴見川は氾濫しておらず、1958年の狩野川台風で2万戸以上が浸水したことを踏まえ、国は2003年に「鶴見川多目的遊水地」(横浜市港北区)を整備し、この遊水池のおかげで、過去20回、流水池には流入しましたが、その間一度も鶴見川は氾濫していません。
多摩川には、このような遊水地がなかったので、激しい水位上昇を招いたと推測されており、今回、東京で氾濫が起きたのは多摩川だけであり、水害の危険がしばしば叫ばれる東京東部の0m地帯は浸水を免れ都心部で氾濫を繰り返してきた善福寺川なども無事でした。

バックウォーター現象


台風19号とその後の長雨が各地の河川を襲ったことにより生じたバックウォーター現象により、大河川だけでなく支流の氾濫も多かったですが、バックウォーター現象とは、2河川の合流地点で本流の増水により、支流がせき止められたり水が逆流したりする現象のことですが、バックウォーター現象は、短くて流れが急な日本の河川では、どの川の合流地点でも起こり得る現象であり、この現象が、台風19号の被害を甚大にした大きな要因です。
バックウォーター現象や想定外の浸水への対策は、今後、各地方自治体にとって急務になりますが、この対策には、支流でも一級河川と同等の治水対策が求められるので、地方自治体によっては、費用や時間の限界により対策が進まない可能性があるので、住民ができる対策の第一歩目は、対策が進んでいる地方自治体に住むことになります。
また、住民の自主的な防災対策としては「古地図」の活用も有効であり、近年の異常気象により、ハザードマップで想定していない場所でも浸水する危険性が高まっていますが「古地図」を見れば、土地の成り立ちが明確に分かります。
「古地図」は、国土地理院がホームページで公開しており、図書館でも閲覧できるので、自分が住んでいる土地の成り立ちを理解することにより、浸水の危険性が高い場所を判別することが、自分や家族の身の安全を守ることにつながります。

連続滝状災害


2019年
8月末に九州北部を襲った大雨で、最も危ないレベル5の「大雨特別警報」が出ましたが、佐賀県や福岡県では車が流されるなどして、少なくとも3人の死亡が確認されています。
気象庁によると、1時間に50㎜以上の「滝のように降る雨」の発生回数を、統計をとり始めた1976年からの10年間と2009年からの10年間で比べると1.4倍にもなっており、これだけでも、地球温暖化がもたらす水害の危険性が増していることが分かりますが、とくに、
秋雨前線に台風の到来が重なる秋こそ最大レベルの注意が必要であり、さらに絞り込むと、注意が必要なのは高層ビルが連なる大都市であり、山のように立ちはだかるビル群に風が当たると強い上昇気流が起きて発達した積乱雲をつくりだし大雨が降り続きます。
しかも、現代は山間部に降った大雨が滝のような勢いで川に流れ込み、広い範囲で氾濫する「連続滝状災害」と呼ぶ広域災害が起きる危険も高まっており、荒川、庄内川、淀川といった大河川の下流域の東京、名古屋、大阪は危険です。

気象の変化


気象庁は、2013年から「特別警報」の運用を開始し、台風や集中豪雨などにより数十年に一度の大雨が予想される場合には「大雨特別警報」が発表されますが、2013年から2019年11月までに福岡県・長崎県・沖縄県に3回(2年に1回)、宮城県・茨城県・栃木県・京都府・佐賀県に2回(3年に1回)と、限られた地域に高い頻度で警報が出ています。
これは、気象状況の変化により雨の降り方が変わってきている証であり、世界的な地球温暖化が進行した結果、降るときには大量の雨が降り、降らないときには全然降らないという「気象の極端化」現象が進行しているためであり、高い頻度で警報が出ている地方自治体や住民は、気象が変わったことを前提に対策を進めなければなりません。

人災


繰り返される水害に対して、なすすべがないようにも思えますが「国民の生命と財産を守る」のが国や地方自治体の役目ですが、台風19号では国や地方自治体のミスや水害対策の遅れが発覚しています。

台風19号では、茨城県内の那珂川で、国交省の職員が水が堤防を越えているのを確認しながら「現場が混乱していた」などとして氾濫発生情報を出しておらず、長野県飯山市では、避難勧告が出されたのは河川の氾濫から数時間後です。
ほかの地方自治体でも、住民に情報が適切に伝わらず、避難が遅れるケースが見受けられ、国交省の資料では、河川整備計画で、堤防が必要なのに整備できていない、基準に達していない箇所が3割もあり、十分には進んでいないのが現状です。
治水事業等関係費は、1998年度の2兆円近くから減少し続け、ここ数年は1兆円前後なので「財政悪化」を口実に水害対策は、先送りされてきているのが、近年の、河川氾濫等の自然災害の大型化を招いているとも言えます。
水害を防ぐには堤防の強化のほかに、森林保護や川の浚渫、下水道の整備などやるべきことはたくさんありますが、こうした対策を、国や地方自治体が、講じてこなかったことで現代社会に生きる私たち「国民の生命と財産」を危うくしており、近年、国内で相次ぐ水害で分かったことは、いままでの水害対策は、完全に間違いだらけということです。


ダムは無力


近年、長い期間に亘り、国がダムの建設を優先し、堤防の強化を後回しにしてきたツケが、国民に実害としてまわってきており、地球温暖化で、大量の雨が降ってくる時代になっても、国の頭の中は、いまだに「ダム依存体質」から脱却できておらず、しかも、そのダムへの執着は尋常ではなく、ダム計画が残っている河川では、ダムでは「命は守れない」ことが、はっきりしつつあるのに、堤防が未整備のところが目立ちます。
また、
ネット上を中心に、東京都心などで大規模浸水がなかったのはダムなど巨額の治水工事のおかげだという間違った主張が流布され、建設中止問題が注目された八ツ場ダム(群馬県長野原町)を称賛する声もありますが、
治水対策の基本は、堤防の強化でありダムでは水害は防げません。
具体的には、近年、頻発するゲリラ豪雨に対してダムは無力であり、集中的に降る雨によりダムは、すぐに満水になってしまうので、ダムの決壊を防ぐために緊急放流をした場合、ダムに貯められた莫大な量の水が一気に下流域に流れることにより、堤防の決壊などのリスクが高まり、結果として、下流域の水害の危険が高まります。
実際に、2018年7月の西日本豪雨では、愛媛県の肱川上流にある野村ダムなどが緊急放流し、広範囲な浸水被害を起こしています。
このようにダムには問題がありますが、ほかにも、上流から土砂がダムに流れ込んで起きる「堆砂」が進んでおり、多くのダムが、堆砂によって容量が少なくなっており、八ツ場ダムは、たまたま、試験貯水中で空っぽに近かったのでギリギリ凌げましたが、もし、通常運用で水が溜まっていたら、緊急放流で下流域が洪水になる危険性も十分にありました。
近年では、地球温暖化の影響により、大型台風の襲来やゲリラ豪雨が頻発しており、堤防からの越流水はある程度、仕方がない(本来はあっては駄目)としても、堤防の決壊だけは何としても死守しなければならず、堤防が決壊すると被害が一気に拡大するのは、結果が証明しており、堤防の決壊は「寝たきりの人」や多くの高齢者が犠牲になる確率が一気に高くなります。
堤防の強化は、ダムの建設と比較した場合、比較的簡単にできるのに、国や地方自治体が巨費がかかるダム建設を優先しているのは「堤防強化は利権にならないから魅力がない」から後回しにしていると思われても仕方がないことになります。

新型コロナウイルス

2020年4月13日に大雨で土砂災害の危険性があるとして、千葉県の鴨川市と南房総市に避難勧告が出されましたが、新型コロナウイルスが、猛威を振るっている現在、避難所に行くのは自ら「3密」に飛び込むことになりますが、これは双方のリスク、つまり、新型コロナウイルス感染によるリスクと災害によるリスクの双方を比較(リスクマネジメント)する必要があります。
例えば、小学校などの体育館に1000人が避難すると、その中には、100%保菌者がいると考えるべきであり、それに対して、個人が取れる対策には限界があり、また、いまの日本の避難所では「3密」は避けられないので、必然的に、感染する可能性は高くなりますが、これまでの新型コロナウイルスによる死亡率を鑑みると、避難により避難者の半数が罹患しても、その内、重症化して亡くなる人は2%程度なので想定される亡くなる人の数は20人。
一方、河川の氾濫により堤防が決壊した場合、そこに住む人たちの死亡率は8~10%程度と推定した場合、想定される亡くなる人の数は80~100人。
つまり、新型コロナウイルスよりも自然災害のほうが死亡リスクが高いので「避難は躊躇してはならない」となり、今回のような二者択一の場合、リスクが高い災害に対しては、低い方のリスク(感染による死亡)は受け入れるしかありません。
しかし、避難所を運営する地方自治体により、新型コロナウイルスの感染リスクをゼロにはできなくても「3密」状況を緩和することは十分に可能であり、具体的には、大規模な自然災害が発生して避難指示を出す場合、いままでのように1000人を1ヶ所に集めるのではなく、避難所機能を有する別の場所の施設もすべて開放して避難者を分散させることより密度を下げられるので、これだけでも「3密」の緩和と新型コロナウイルスの感染リスクは軽減できます。
しかし、避難生活が長期化すると、取り残されるのは高齢者であり、地方自治体の対応が遅れると、避難所が、院内感染状態になることも考えられるので、自分を守るために、重症化しやすい高齢者は、症状を我慢せずに医師に相談すべきであり、地方自治体も、高齢者には、特に、目を配るべきです。
これから、本格的にゲリラ豪雨や台風の季節を迎える日本において、近年、目に見える形で、大災害の頻度は上がっており、収束の兆しも見えない新型コロナウイルスの感染リスクと自然災害の「ダブル災害」に襲われることは、非現実的な仮想空間のシミュレーションではなく、現実的なシミュレーションとして存在しているので、住民を、避難させたことで感染者が出たら、後追いの批判も出てくるでしょうが、避難所を運営する地方自治体は「1人でも多くの住民の命を守る」ことを最優先に考えるべきであり、避難をさせなくても亡くなる人が1人でも出たら非難をするのが、いまの日本人なので、言い方は悪いですがどちらを選択しても、1人でも亡くなれば、地方自治体は非難されます。
それであれば、地方自治体は、そのような非難の言葉など気にせずに、
より多くの住民の命を守れる可能性が高い選択をするべきです。

国による災害誘発について

記録的な雨量をもたらす豪雨、台風の巨大化など日本各地で水の災害が相次いでいますが、地球温暖化により、この災害は、治まることはなく、年々、酷くなっていくと予測されています。
その理由は、気温面にのみ関心がいき、見落とされがちですが、地球の温暖化は、気温だけではなく海水温度も上昇させているので、日本全体が亜熱帯化が進んでいるのと同様に、東日本の海水温度も上昇していると思われ、ほかにも、海水の温度が27度を超えると台風は勢力を弱めずに移動できるようになるとされているので、今後も、東海や関東、東北に上陸する台風は増えることになります。
ほかにも、日本国内で危険な地域に住む人が増えていることも災害が増える要因になりますが、1995年から2015年の20年間で、浸水想定区域内の人口が約150万人も増えて約3500万人にもなっており、日本は、人口減少時代に入っているのに、人々は、率先して水害リスクの高いエリアに移り住んでおり、この傾向は災害弱者と呼ばれる高齢者で、とくに顕著になっています。
これにより、これまで未利用だった土地に新しく住居などが建ちますが、先日も、住民が、地方自治体に対して訴訟を行ったことがニュースになりましたが、建設地の多くは、水害に弱い地域だから未利用地だったケースが多いので、都市部に流入している人たちが新しく建てた住居は建てた瞬間から危険だらけということになります。
ほかにも、東京のような都市部では、内水氾濫と地震洪水の危険性が指摘されており、内水氾濫は、大雨によって排水管や下水管の処理能力を超えて水が溢れることで、地下街や地下鉄に水が大量に流入することがあります。
地震洪水は、激しい揺れによって堤防が破壊されて0m地帯以下のエリアに海水が逆流することですが、堤防が破壊されると海水の流入を防ぐことは物理的に難しくなるので、地震洪水は、台風以上の被害を出すと予測されています。
しかし、地震に比べ、水害は、天気予報の精度が高まっているので予想しやすいという一面も持っているので、事前にインフラを整え、大雨時には早めに避難すれば、被害の拡大は防ぐことができる筈ですが、実際は、豪雨災害が増えています。
要因の1つとして挙げられているのが、あまり話題になっていませんが、安倍政権は「林業の成長産業化」を旗印に、植林から51年以上経ったスギやヒノキの伐採を奨励しており、この政策は、2017年に36.2%だった木材自給率を、2025年までに50%に引き上げることを目標にしています。
これにより、日本各地で、山に生えている木を広範囲に亘って、すべて伐採する「大規模皆伐」が起こっており、皆伐された山は、地表がむき出しでカラカラに乾いているので、森林が本来、持っている保水能力を完全に失っています。
その山に大量の雨が降れば、コンクリートの上に雨が降った状態と同様で水を低い場所に流すだけになり谷などの低い場所に水が集中して勢いを増した結果、土砂崩れを引き起こすリスクが高まります。
実際に、
今回の大雨で、幅数十m、長さ100m以上の土砂崩れが発生しましたが、
皆伐されていない周囲の山では土砂崩れは起きていません。
安倍政権では、自身が掲げた「国土強靭化」目標を達成するために、2018年に森林経営管理法、2019年に国有林野管理経営法を改正するなど、大規模に木を伐採できる法律を成立させ続けましたが、このような生産量を上げることだけを目的にして、環境面に、まったく配慮しない無計画な皆伐は「国土弱体化」を招くだけであり、下流に住む人や未来世代に負の遺産を残すだけであり、この皆伐が「豪雨時の土砂崩れを誘発している」と指摘されています。
また、少量の雨でも皆伐された山からは、少しずつ土壌が削り取られていくので、その土がダムの底に大量に溜まれば、公表されている貯水可能量が貯められなくなり、その土が、川に流れたら河床を引き上げ氾濫しやすくなるので、いくら堤防を高くしてダムをたくさん作っても、大雨の前に土が大量に流れ込んでしまえば意味がありません。
さらに、この事態をさらに悪化させているのが、本来であれば、森林を維持する立場にある林野庁が推進している短時間で大量の木を伐採できる「高性能林業機械」の導入であり、高性能林業機械は、機械の大きさに合わせて幅の広い林道を必要とするため、急斜面に大きな林道を付ける必要があり、そこから、土砂崩れが起きるというケースも相次いでいます。
このように、誰も気が付かないうちに日本の山で進んでいる森林破壊により、山のふもとに住む人や下流域の町の災害リスクを高まっていますが、一度、破壊された自然が元に戻るのを待つ時間は、私たちには残されていません。
このように、本来は、国民を守る立場にある筈の国によって自分達の生活を脅かされ続けている私たちにできる自己防衛方法は、先ずは「自分たちの住んでいる町の上流域の山がどうなっているのか?」を知ることから始めるべきでありで、また、上流域で皆伐されたエリアが判明したら、それを記録して、ハザードマップのように周辺の住民に周知し、その情報を共有することです。
災害を防ぐことは困難でも被害を減少させることは、その地域が、一丸となれば可能性が高くなるので、そのためには、地域住民との関わりは不可欠です。
都市部で、誰とも関わらずに生きることは気楽かもしれませんが、それでは、災害のときに確実に孤立してしまいます。
誰でもできることは、先ずは、祭りなどの地域のイベントに参加して、近隣住民との親睦を深めるべきであり、住民間の精神的な垣根が低くなれば、災害時に危険な場所の情報や被災後の対策の話も出るようになり、その情報が、いざという時に自分自身を守ることにつながります。
津波に代表されるように、水の力の前には人間は無力なので、だからこそ、その強敵に対して自分一人で立ち向かうのではなく、一緒に立ち向かってくれる多くの仲間をつくることが重要になります。